[コラム]地球というフラスコ
- 2015/08/14
- 21:29
今日の化学者は、実験室のフラスコの中で美しい多面体の構造を持つ巨大分子を創り出すことができる。しかし巨大分子とはいえ、その大きさは数ナノメートル(10⁻⁹m)という極微の世界なので、化学者はX線構造解析やNMR(核磁気共鳴)という方法・装置を使ってその姿を見るのである。この画像を我々も目にすることができるが、たとえば八面体の構造を持つ分子は、たいへん精巧で繊細な印象を受ける。とても人工的には創ることができないと思えるが、化学者がフラスコの中で創り出したものなので、人工物と言えるのかも知れない。
しかし、この人工物は、意志を持った人間と、まるで意志を持つかのような分子の自発的な集合(これを自己組織化と呼ぶ)の共同作業で創り出されたのである。分子は、化学結合の強弱、触媒、エネルギーなどの環境や条件が整えば、居心地のいい安定した状態を求めて自己組織化を行う。こうして創られた多面体構造の分子は、フラスコの中で安住の場所を得たのである。
さて、自然界での自己組織化の例として、生物の細胞中のDNAの二重らせん構造やタンパク質の複雑な立体構造がある。実験室のフラスコの中で分子の自己組織化が起こるのであれば、人工生物の部品を創ることも近い将来にはできるのではないかと思いたくなる。だが、細菌などの原始的な生物でさえ、そこまでの道のりははるかに遠いという。それでは、フラスコの中の多面体分子と生物をかたち作る分子とは何が違うのか?
(もちろん、生物は代謝を行い、自己複製を行うことが最大の特徴であり定義ともいえるが、ここではその他の特徴を比べてみたい。)
第一に、大きさの違いがある。フラスコの中の八面体分子は直径が5ナノメートル程度であるが、球状構造を持つウイルス(これは生物といえるか不明だが))でさえ、10倍の直径があり巨大すぎる。第二に、素材の違いがある。八面体分子は主に金属を用いているが、生物は、柔らかいひも状の分子で出来ている。(DNAやタンパク質がよい例である。)生物は柔らかいものなのである。
第三に、実験室の中のフラスコは閉じた環境であり八面体分子が出来上がれば安定した平衡状態になる。これに対して生物が生み出される環境は、地球という巨大なフラスコの中だが、これは開かれた環境である。太陽からの光エネルギーが降り注ぎ、大気と水が循環する。火山は地球内部の物質とエネルギーを地表に押し出し、宇宙から隕石が飛び込んで来てフラスコを掻き混ぜる。
そして第四は、時間のスケールである。実験室のフラスコの中で八面体分子が創り出されるのにかかる化学反応の時間は数時間である。しかし、化学者は試行錯誤を繰り返し、狙った結果が得られるのは数か月から数年に1回だという。これに対して、地球というフラスコの中での実験は、数億年、10億年という永遠とも思える時間を使いトライ&エラーを繰り返す。それでもランダムに分子を組み合わせていては、この悠久の時間でも生物は生み出せそうにない。しかし、分子はこの地球というフラスコの中で条件が合えば、自己組織化という能力を発揮して実験に協力してくれるのである。138億年前の宇宙誕生からほどなく生成された分子が、まるで宇宙の意志を持っているかのように。 (記:五等星)
しかし、この人工物は、意志を持った人間と、まるで意志を持つかのような分子の自発的な集合(これを自己組織化と呼ぶ)の共同作業で創り出されたのである。分子は、化学結合の強弱、触媒、エネルギーなどの環境や条件が整えば、居心地のいい安定した状態を求めて自己組織化を行う。こうして創られた多面体構造の分子は、フラスコの中で安住の場所を得たのである。
さて、自然界での自己組織化の例として、生物の細胞中のDNAの二重らせん構造やタンパク質の複雑な立体構造がある。実験室のフラスコの中で分子の自己組織化が起こるのであれば、人工生物の部品を創ることも近い将来にはできるのではないかと思いたくなる。だが、細菌などの原始的な生物でさえ、そこまでの道のりははるかに遠いという。それでは、フラスコの中の多面体分子と生物をかたち作る分子とは何が違うのか?
(もちろん、生物は代謝を行い、自己複製を行うことが最大の特徴であり定義ともいえるが、ここではその他の特徴を比べてみたい。)
第一に、大きさの違いがある。フラスコの中の八面体分子は直径が5ナノメートル程度であるが、球状構造を持つウイルス(これは生物といえるか不明だが))でさえ、10倍の直径があり巨大すぎる。第二に、素材の違いがある。八面体分子は主に金属を用いているが、生物は、柔らかいひも状の分子で出来ている。(DNAやタンパク質がよい例である。)生物は柔らかいものなのである。
第三に、実験室の中のフラスコは閉じた環境であり八面体分子が出来上がれば安定した平衡状態になる。これに対して生物が生み出される環境は、地球という巨大なフラスコの中だが、これは開かれた環境である。太陽からの光エネルギーが降り注ぎ、大気と水が循環する。火山は地球内部の物質とエネルギーを地表に押し出し、宇宙から隕石が飛び込んで来てフラスコを掻き混ぜる。
そして第四は、時間のスケールである。実験室のフラスコの中で八面体分子が創り出されるのにかかる化学反応の時間は数時間である。しかし、化学者は試行錯誤を繰り返し、狙った結果が得られるのは数か月から数年に1回だという。これに対して、地球というフラスコの中での実験は、数億年、10億年という永遠とも思える時間を使いトライ&エラーを繰り返す。それでもランダムに分子を組み合わせていては、この悠久の時間でも生物は生み出せそうにない。しかし、分子はこの地球というフラスコの中で条件が合えば、自己組織化という能力を発揮して実験に協力してくれるのである。138億年前の宇宙誕生からほどなく生成された分子が、まるで宇宙の意志を持っているかのように。 (記:五等星)
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