[コラム]物質と生物を分かつもの
- 2020/07/14
- 16:35
ダーウィンが「種の起源」を出版してから160年以上が経った現在、生物の進化に関連する研究は大きく発展した。そして、各生物のDNAの比較研究などから進化の系統樹が作られ、およそ40憶年に渡る生物進化の歴史が目に見えるようになった。この系統樹には、我々ホモ・サピエンスを含め、現在の地球上に存在する生物から過去に遡ることができる。そうすると系統樹の最初の方には、現存するまたは絶滅した数えきれない生物たちの共通の祖先に辿りつくはずである。今の系統樹では、原核生物のバクテリア(細菌)やアーキア(古細菌)が生物の歴史の最初の方に位置している。しかし実際にはこれらの前に、地球上に最初に誕生した1つの細胞が存在したはずである。つまり、生物の起源と呼ぶべき存在である。
近年、この地球に最初に生まれたであろう細胞を人工的に合成しようという研究が世界中で試みられている。合成生物学という新しい研究分野である。人工細胞を創ることにより、生物の本質に関する理解を深め、生物の起源に迫ろうとしている。ある研究では、バクテリアのDNAから遺伝情報を削除してゆき、生物として機能するための最低限の遺伝情報は何かを探求している。また、ある研究では、バクテリアの抽出液から細胞小器官や酵素などの化学物質を単離して人工細胞膜の中に再構築した環境で自然光によるATP合成を成功させている。さらにこの化学エネルギーを使ってタンパク質の生成も達成したという。これは、基本的な生物の定義とされる、細胞膜とエネルギー代謝をある程度実現したといえるだろう。ただ、生物は複製する、という定義の人工的な実現にはまだ困難が大きいという。しかし、これらの先進的な研究は、生物の本質を理解しその起源の解明につながる可能性を感じさせる。
さて、46億年前に我が地球が形成された後、微惑星の衝突が一段落し、地球表面の温度が下がり地殻が形成されて海ができた。最初の生物となる細胞がおよそ40億年前に生まれたと想定しよう。この原初の細胞はその頃の地球環境上にある物質から生まれたことになる。そのとき物質から生物への飛躍が起きたということになるが、物質と生物を分かつものはいったい何だったのか。原始地球には大気、水、岩石、金属などの無機物質が存在した。しかし、これらは生物ではない。原始地球環境の中で適当なエネルギーと触媒作用を受けて、無機物質が自己集合(自己組織化)して、あるいは宇宙空間から隕石に乗ってきて地球上にアミノ酸や核酸などの有機物質が発生した。しかし、これらも生物ではない。
生物の定義として上述したように、膜、代謝、複製があるが、これとは違った観点で生物を特徴づける考え方がある。それは「情報」である。この代表的なものが核酸(RNAやDNA)という物質を媒体としてコドンという言葉で書かれている遺伝情報である。コドンは核酸を構成する塩基の文字を3つずつ区切って言葉にしたもので、地球上の全生物に共通の言語である。この言語による情報はアミノ酸からタンパク質を合成し、エネルギー代謝や次世代への複製などを制御している。また、生物が生存環境に対して柔軟な反応をするときにも情報が重要な役割を果たす。生物が感覚器官を通じて情報を得て適切な運動を行うこと、免疫機能を発揮すること、さらに社会性を発揮することなど、情報を巧みに処理して生きているといえる。生物は情報とともにこれを動かすソフトウェアも内蔵しているのである。このように、生物であることの必要条件は情報処理システムであることといえる。
最初の生物(細胞)が原始地球環境に存在した物質から生まれたことは間違いない。しかし、物質は細胞のハードウェアを形作っただけではなく、細胞が持つ情報の媒体にもなった。そして、原始地球の物質・エネルギー環境の中で延々と試行錯誤を繰り返した結果、幸運なある細胞が情報処理の第一歩を踏み出したのであろう。物質と生物を分かつものは「情報」であり、生物の起源は情報の起源の問題に帰着できるのかも知れない。もちろん、それで生物の起源の問題が解決するわけでもなく謎は深まるばかりだが、問題の整理にはなる。現在我々人類という生物は、パソコンやスマホなどの情報処理システムを日常的に利用しているが、これらは生物ではない。(未来社会では人工生物と呼ばれるようになるかも知れないが。)地球上に最初に現れた細胞が40億年という悠久ともいえる歳月を経て生命をつないできたという事実こそ、生物の十分条件なのである。 (記:五等星)
近年、この地球に最初に生まれたであろう細胞を人工的に合成しようという研究が世界中で試みられている。合成生物学という新しい研究分野である。人工細胞を創ることにより、生物の本質に関する理解を深め、生物の起源に迫ろうとしている。ある研究では、バクテリアのDNAから遺伝情報を削除してゆき、生物として機能するための最低限の遺伝情報は何かを探求している。また、ある研究では、バクテリアの抽出液から細胞小器官や酵素などの化学物質を単離して人工細胞膜の中に再構築した環境で自然光によるATP合成を成功させている。さらにこの化学エネルギーを使ってタンパク質の生成も達成したという。これは、基本的な生物の定義とされる、細胞膜とエネルギー代謝をある程度実現したといえるだろう。ただ、生物は複製する、という定義の人工的な実現にはまだ困難が大きいという。しかし、これらの先進的な研究は、生物の本質を理解しその起源の解明につながる可能性を感じさせる。
さて、46億年前に我が地球が形成された後、微惑星の衝突が一段落し、地球表面の温度が下がり地殻が形成されて海ができた。最初の生物となる細胞がおよそ40億年前に生まれたと想定しよう。この原初の細胞はその頃の地球環境上にある物質から生まれたことになる。そのとき物質から生物への飛躍が起きたということになるが、物質と生物を分かつものはいったい何だったのか。原始地球には大気、水、岩石、金属などの無機物質が存在した。しかし、これらは生物ではない。原始地球環境の中で適当なエネルギーと触媒作用を受けて、無機物質が自己集合(自己組織化)して、あるいは宇宙空間から隕石に乗ってきて地球上にアミノ酸や核酸などの有機物質が発生した。しかし、これらも生物ではない。
生物の定義として上述したように、膜、代謝、複製があるが、これとは違った観点で生物を特徴づける考え方がある。それは「情報」である。この代表的なものが核酸(RNAやDNA)という物質を媒体としてコドンという言葉で書かれている遺伝情報である。コドンは核酸を構成する塩基の文字を3つずつ区切って言葉にしたもので、地球上の全生物に共通の言語である。この言語による情報はアミノ酸からタンパク質を合成し、エネルギー代謝や次世代への複製などを制御している。また、生物が生存環境に対して柔軟な反応をするときにも情報が重要な役割を果たす。生物が感覚器官を通じて情報を得て適切な運動を行うこと、免疫機能を発揮すること、さらに社会性を発揮することなど、情報を巧みに処理して生きているといえる。生物は情報とともにこれを動かすソフトウェアも内蔵しているのである。このように、生物であることの必要条件は情報処理システムであることといえる。
最初の生物(細胞)が原始地球環境に存在した物質から生まれたことは間違いない。しかし、物質は細胞のハードウェアを形作っただけではなく、細胞が持つ情報の媒体にもなった。そして、原始地球の物質・エネルギー環境の中で延々と試行錯誤を繰り返した結果、幸運なある細胞が情報処理の第一歩を踏み出したのであろう。物質と生物を分かつものは「情報」であり、生物の起源は情報の起源の問題に帰着できるのかも知れない。もちろん、それで生物の起源の問題が解決するわけでもなく謎は深まるばかりだが、問題の整理にはなる。現在我々人類という生物は、パソコンやスマホなどの情報処理システムを日常的に利用しているが、これらは生物ではない。(未来社会では人工生物と呼ばれるようになるかも知れないが。)地球上に最初に現れた細胞が40億年という悠久ともいえる歳月を経て生命をつないできたという事実こそ、生物の十分条件なのである。 (記:五等星)
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