[コラム]ウイルスという生き方
- 2019/11/13
- 17:16
暦の上では冬に入り、次第に寒くなり空気が乾いてくる季節になった。そうすると、風邪やインフルエンザが心配になる。これらはウイルスが引き起こす。今年ウイルスによる帯状疱疹でつらい思いをした私は、ウイルスについて、病気を引き起こすやっかいなものだという印象しかなかった。ところが21世紀に入って「巨大ウイルス」と呼ばれるものが次々と発見され研究が進み、これまでのウイルスの見方が大きく変わってきたというのである。
そもそも人に病気を引き起こすウイルスは少数派で、多くのウイルスは人に悪い影響を与えることはないらしい。我々のまわりには、空気中にも水中にも、また我々の体の表面や腸内などにも多くのウイルスが存在しているという。雨粒1つの中のウイルスを数えたら2億ほどもいたという報告があるというから驚く。細菌の大きさが千分の1㎜ほどで、ウイルスはその細菌のさらに百分の1~千分の1ほどとから、我々のまわりにどれだけいても気がつかない。だから光学顕微鏡では見えず、電子顕微鏡を使うのである。一方巨大ウイルスは細菌と同じくらいの大きさなので、光学顕微鏡で見ることができる。
ウイルスはRNAまたはDNAを持ち、これをカプシドという正多面体をしたタンパク質の殻が包んでいる。さらにカプシドをエンベロープという膜成分で覆うものもある。ウイルスは細胞膜を持たず、代謝機能を持たない。また、RNAやDNAを持つが自ら複製は行わない。これはタンパク質合成に必要なリボソームなどを持たないためである。しかし、生物の細胞に感染してその複製機能を奪い、自身のRNAやDNAを使って複製を行い、自らのコピーを大量に産み出す。
このようなウイルスがあらためて今注目されているのは、生物の進化に大きく関わってきた可能性があるためである。ヒトゲノムの解析の結果、ウイルス由来の塩基配列が多くあることが分かった。たとえば、あるレトロウイルスはほ乳類の生殖細胞に感染した結果、有袋類の誕生に影響したとの説がある。そして、ヒトを含めた霊長類の胎盤形成につながったとのことである。このように生物とウイルスは遺伝子を交換してきた歴史を持つという。
そして、ウイルスと生物進化の関わりは、近年の巨大ウイルスの研究によって、さらに明らかにされようとしている。巨大ウイルスの特筆すべき点は、ゲノムサイズの大きさで、たとえばパンドラウイルスと呼ばれるものは200万塩基対、遺伝子の数は2500を超える。この遺伝子を解析することにより、巨大ウイルスの系統関係を調べることができるという。この結果、新たな仮説が提唱されている。つまり、巨大ウイルスと真核生物の間で、DNAポリメラーゼ(DNA合成に関わる酵素)による分析を行った結果、系統関係が非常に近い、ということが分かった。このことから、巨大ウイルスの祖先が真核生物の祖先に感染した結果、真核生物に細胞核がもたらされた、という斬新な仮説が生まれた。この仮説の実証はまだこれからだが、魅力的な仮説である。
さらに、実際にパンドラウイルスの持つ2500超の遺伝子のうち93%が自然界に存在する既知の遺伝子とは無関係であったという。つまり、現在の生物の3ドメイン(細菌、古細菌、真核生物)に属さない第4のドメインの可能性があるというのである。そしてさらに、巨大ウイルスの祖先は生物全体の共通祖先である可能性まである、というのでる。これは現在の生物学の教科書を大きく書き換えるかも知れない、ということだ。
なるほど、現在の生物の定義、細胞、代謝、複製は整っていてきれいである。ことに生物は細胞で出来ている、という定義は明解である。ウイルスも元は細胞から成り、自分で代謝をし、自己複製を行う生物であったという有力な説がある。それが次第に機能を落とすような方向に進化し、細胞も持たず、代謝もせず、自分で複製も行わないシンプルな存在になったという。その代わり、他の細胞に感染してその複製機能を奪い自らの複製を行う時は、生物のようにふるまうのである。しかし、この地球上に生物種の数を超えるほどのウイルスが存在し、40億年の生物の歴史に大きく関わってきた、ということが分かってきた。そうであれば、生物の定義に合わないなどと言わず、ウイルスという生き方をもっと認めてあげてもいいのではないかと思えるのである。 (記:五等星)
そもそも人に病気を引き起こすウイルスは少数派で、多くのウイルスは人に悪い影響を与えることはないらしい。我々のまわりには、空気中にも水中にも、また我々の体の表面や腸内などにも多くのウイルスが存在しているという。雨粒1つの中のウイルスを数えたら2億ほどもいたという報告があるというから驚く。細菌の大きさが千分の1㎜ほどで、ウイルスはその細菌のさらに百分の1~千分の1ほどとから、我々のまわりにどれだけいても気がつかない。だから光学顕微鏡では見えず、電子顕微鏡を使うのである。一方巨大ウイルスは細菌と同じくらいの大きさなので、光学顕微鏡で見ることができる。
ウイルスはRNAまたはDNAを持ち、これをカプシドという正多面体をしたタンパク質の殻が包んでいる。さらにカプシドをエンベロープという膜成分で覆うものもある。ウイルスは細胞膜を持たず、代謝機能を持たない。また、RNAやDNAを持つが自ら複製は行わない。これはタンパク質合成に必要なリボソームなどを持たないためである。しかし、生物の細胞に感染してその複製機能を奪い、自身のRNAやDNAを使って複製を行い、自らのコピーを大量に産み出す。
このようなウイルスがあらためて今注目されているのは、生物の進化に大きく関わってきた可能性があるためである。ヒトゲノムの解析の結果、ウイルス由来の塩基配列が多くあることが分かった。たとえば、あるレトロウイルスはほ乳類の生殖細胞に感染した結果、有袋類の誕生に影響したとの説がある。そして、ヒトを含めた霊長類の胎盤形成につながったとのことである。このように生物とウイルスは遺伝子を交換してきた歴史を持つという。
そして、ウイルスと生物進化の関わりは、近年の巨大ウイルスの研究によって、さらに明らかにされようとしている。巨大ウイルスの特筆すべき点は、ゲノムサイズの大きさで、たとえばパンドラウイルスと呼ばれるものは200万塩基対、遺伝子の数は2500を超える。この遺伝子を解析することにより、巨大ウイルスの系統関係を調べることができるという。この結果、新たな仮説が提唱されている。つまり、巨大ウイルスと真核生物の間で、DNAポリメラーゼ(DNA合成に関わる酵素)による分析を行った結果、系統関係が非常に近い、ということが分かった。このことから、巨大ウイルスの祖先が真核生物の祖先に感染した結果、真核生物に細胞核がもたらされた、という斬新な仮説が生まれた。この仮説の実証はまだこれからだが、魅力的な仮説である。
さらに、実際にパンドラウイルスの持つ2500超の遺伝子のうち93%が自然界に存在する既知の遺伝子とは無関係であったという。つまり、現在の生物の3ドメイン(細菌、古細菌、真核生物)に属さない第4のドメインの可能性があるというのである。そしてさらに、巨大ウイルスの祖先は生物全体の共通祖先である可能性まである、というのでる。これは現在の生物学の教科書を大きく書き換えるかも知れない、ということだ。
なるほど、現在の生物の定義、細胞、代謝、複製は整っていてきれいである。ことに生物は細胞で出来ている、という定義は明解である。ウイルスも元は細胞から成り、自分で代謝をし、自己複製を行う生物であったという有力な説がある。それが次第に機能を落とすような方向に進化し、細胞も持たず、代謝もせず、自分で複製も行わないシンプルな存在になったという。その代わり、他の細胞に感染してその複製機能を奪い自らの複製を行う時は、生物のようにふるまうのである。しかし、この地球上に生物種の数を超えるほどのウイルスが存在し、40億年の生物の歴史に大きく関わってきた、ということが分かってきた。そうであれば、生物の定義に合わないなどと言わず、ウイルスという生き方をもっと認めてあげてもいいのではないかと思えるのである。 (記:五等星)
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