[コラム]社会生活する脳
- 2019/10/09
- 15:17
群れを作って集団で行動する動物は多い。人類の祖先達も集団で協力して狩りをし、皆で食べ物を分け合って暮らしていたのだろう。これを社会生活と呼んでもいい。しかし、現代の我々のような複雑な社会システムの中で生活しているのとは違い、危険なことは多かったにせよ、おおらかな生活だったのではないかと想像する。それでも人類の特長であるよく発達した脳の力を発揮して日々意思決定を行い、集団で協力して生き抜いたのであろう。
我々もまた、日々の生活の中で常に意思決定を行い行動している。この意思決定のための脳内システムが明らかになりつつある。これは報酬予測と強化学習という脳内の仕組みによるものである。我々の脳内には報酬系と呼ばれる回路が存在していることは、20世紀半ばにラットによる実験で発見されたという。この報酬系回路を刺激されたラットはこの刺激を求めて、実験者の仕組んだ行動をとるようになる。研究が進み、この報酬系回路は人においても強力に働くものであることが分かってきた。そして、この回路ではドーパミンという神経伝達物質が関与していることも明らかにされた。ドーパミンは脳の深部にあるドーパミン作動性ニューロンによって作られ、このニューロンは脳の前頭前野や偏桃体を含めた広い部位に軸索を伸ばして神経回路を形成している。そしてドーパミンが放出されると快感が認知されるということである。
動物は生得的に食べ物や交配行動によりドーパミンが放出され、この報酬系が作動する。また人は社会生活を行う上で脳の前頭前野が報酬であると感じた時に、この報酬系回路が作動するという。そして人は「報酬予測」を行い、予測したよりも大きい報酬を得たときは大きい快感を感じる。また反対に予測したことを達成できずにがっかりする場合もある。このようなことを「報酬予測誤差」という。報酬予測誤差は大きいほど大きい快感を得て学習効果も大きい。これを日々繰り返すことによりいわゆる「強化学習」が図られるという。つまり人は日々の社会生活を行う上で、報酬予測にもとづく意思決定を行いながら、またその報酬予測誤差にもとづいて日々学習を行っているのである。このような脳内システムを持つことにより、人は生得的な欲求以外にも幅広いものを報酬として学習できるという。人が時として自己の利益など顧みない利他的行動をとったり、高い倫理観のもとに行動することがあるのは、この報酬系システムの柔軟性を示しているのではあるまいか。
ところで、人が社会生活を送る上で、他者の心を思いやり行動することは重要である。これについても現在の脳科学は研究対象としている。そして、脳には他者の心をシミュレーションする仕組みがあるとの研究結果がある。あの人はなぜそのような行動をとるのか、どのような気持ちや考えでいるのか、次にどのような行動をとろうとしているのか、などを脳内でシミュレーションして推し測っているというのである。人々が協力したり、衝突を避けたり、調整したりと日々の生活の上で常に行っていることである。上述の意思決定の仕組みや他者の心を推し測る仕組み、いわば社会生活をする脳の研究が進んでいる。
言い換えれば、これはとりもなおさず、脳という臓器がどのようにして心という目に見えず触ることもできないものを生み出しているかの一端を理解しつつあるということであろう。このような研究を行うには、脳という臓器の解剖学的研究やラットなどの動物を使った実験、さらにはfMRIなどの装置を用いた測定など多角的な方法が必要である。さらに、これらに加えて脳の計算モデルによる数理的研究も活発に行われて成果をあげている。上述の強化学習の研究などはその典型で、その成果は脳とAIの両方に及んでいる。脳という物質から、心という目に見えず触ることもできないものが生じることを表現するには、脳が行う情報処理という目に見えず触ることもできないものを表現する数学の言葉が必要なのであろう。 (記:五等星)
我々もまた、日々の生活の中で常に意思決定を行い行動している。この意思決定のための脳内システムが明らかになりつつある。これは報酬予測と強化学習という脳内の仕組みによるものである。我々の脳内には報酬系と呼ばれる回路が存在していることは、20世紀半ばにラットによる実験で発見されたという。この報酬系回路を刺激されたラットはこの刺激を求めて、実験者の仕組んだ行動をとるようになる。研究が進み、この報酬系回路は人においても強力に働くものであることが分かってきた。そして、この回路ではドーパミンという神経伝達物質が関与していることも明らかにされた。ドーパミンは脳の深部にあるドーパミン作動性ニューロンによって作られ、このニューロンは脳の前頭前野や偏桃体を含めた広い部位に軸索を伸ばして神経回路を形成している。そしてドーパミンが放出されると快感が認知されるということである。
動物は生得的に食べ物や交配行動によりドーパミンが放出され、この報酬系が作動する。また人は社会生活を行う上で脳の前頭前野が報酬であると感じた時に、この報酬系回路が作動するという。そして人は「報酬予測」を行い、予測したよりも大きい報酬を得たときは大きい快感を感じる。また反対に予測したことを達成できずにがっかりする場合もある。このようなことを「報酬予測誤差」という。報酬予測誤差は大きいほど大きい快感を得て学習効果も大きい。これを日々繰り返すことによりいわゆる「強化学習」が図られるという。つまり人は日々の社会生活を行う上で、報酬予測にもとづく意思決定を行いながら、またその報酬予測誤差にもとづいて日々学習を行っているのである。このような脳内システムを持つことにより、人は生得的な欲求以外にも幅広いものを報酬として学習できるという。人が時として自己の利益など顧みない利他的行動をとったり、高い倫理観のもとに行動することがあるのは、この報酬系システムの柔軟性を示しているのではあるまいか。
ところで、人が社会生活を送る上で、他者の心を思いやり行動することは重要である。これについても現在の脳科学は研究対象としている。そして、脳には他者の心をシミュレーションする仕組みがあるとの研究結果がある。あの人はなぜそのような行動をとるのか、どのような気持ちや考えでいるのか、次にどのような行動をとろうとしているのか、などを脳内でシミュレーションして推し測っているというのである。人々が協力したり、衝突を避けたり、調整したりと日々の生活の上で常に行っていることである。上述の意思決定の仕組みや他者の心を推し測る仕組み、いわば社会生活をする脳の研究が進んでいる。
言い換えれば、これはとりもなおさず、脳という臓器がどのようにして心という目に見えず触ることもできないものを生み出しているかの一端を理解しつつあるということであろう。このような研究を行うには、脳という臓器の解剖学的研究やラットなどの動物を使った実験、さらにはfMRIなどの装置を用いた測定など多角的な方法が必要である。さらに、これらに加えて脳の計算モデルによる数理的研究も活発に行われて成果をあげている。上述の強化学習の研究などはその典型で、その成果は脳とAIの両方に及んでいる。脳という物質から、心という目に見えず触ることもできないものが生じることを表現するには、脳が行う情報処理という目に見えず触ることもできないものを表現する数学の言葉が必要なのであろう。 (記:五等星)
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